所属団体「鉄道研究会WOO」の会報誌『OH!WOO!!』が今年で30周年を迎える。

30周年を記念した次回の会報誌のテーマが「30駅めの取材」だったので、「阪急阪神1dayパス」の範囲内で、30駅ごとに乗り降りをしてみた。image

ちなみに「阪急阪神1dayパス」とは、阪急電鉄全線・阪神電車全線・神戸高速全線が乗り降り自由で1,200円というもので、今回のように乗ったり下りたりを繰り返すにはもってこいのチケットだ。
30駅めの設定は、桃太郎電鉄というゲーム内に出てくる「リニアカード(現在地から30駅進めるカード)」の設定に従うことにする。つまりぐるっとループすることはできるが、行き止まりでの往復には使えない…ということだ。乗り継ぎに関しては、阪急と阪神の両社がつながる神戸高速鉄道の「高速神戸」駅、そして「梅田」駅と「今津」駅を同じ駅として扱うことにする。また厳密に30駅を実践するため、各駅停車のみ乗車することにする(急行・特急等は各駅停車区間のみ使用する)。さて朝の8時から日暮れまでの約11時間、上記のルールで乗り降りを実施してみた。

スタート:阪急宝塚線「雲雀丘花屋敷」駅

乗り継ぎ -「宝塚」-「西宮北口」-「阪急三宮」-「高速神戸」-「三宮」-image

自宅最寄り駅からスタート。梅田方面の電車が出たばかりだったので、あまり考えずに宝塚方面へ。この段階で次の分岐駅である「西宮北口」駅まで12駅なので、そこから18駅で行ける目的地は…阪急だと「中山観音」「上牧」、阪神だと「三宮」「福島」「桜川」「武庫川」「福」「新在家」、8駅も候補がある。桃太郎電鉄なら「いけるかな?」機能でさっとスクリーニングしてくれるところだが、そんなものはないので路線図をスマホに取り込んで(図)のベタな手作業である。このあたりの準備をあらかじめしておけば良かったと痛感。…行き当たりばったりで何か見つければ良いやというヌルい発想でスタートしたからだが、その分、車内でスマホと奮闘することとなった。

結果、まぁ行ったことのない、そしていかにも何もなさそうな「新在家」駅に決定。

西宮北口から普通列車「阪急三宮」行きに乗車、そして後続の特急に乗り継ぎ…各駅停車ルールに則ると、こういう乗り継ぎとなる。

「高速神戸」駅から阪神電車に。神戸高速鉄道内は特急しか走っていないと思っていたので、阪神の「三宮」駅まで特急に乗って後続の普通列車に乗り換えたが、この列車は高速神戸からも乗れたので不要な乗り継ぎだった。このあたり私の阪神電車に関する知識の無さの表れであり、後述する大失敗のタネなのである。

1つめの目的地:阪神本線「新在家」駅

取材開始約1時間で最初の目的地に到着。一駅間の所要時間を乗り継ぎロスも含めて2分として、30駅で60分と考えれば良いことが分かる。現地で60分滞在しても、まぁ半日乗り回れば5カ所は行けるだろうという計算がたった。

さて、たいした期待もしていなかった「新在家」駅。周辺地図を見ても電車の車庫と温泉施設、そして国道43号をはさんで工場があるくらいで、いたって普通の住宅地である。阪神電車の高架下が商店街になっているが、朝の9時では当然開いていない。

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とりあえず車庫までと歩いてみたが、車庫は高架の上にあり見ることができない。万事休す。

だが、鉄道と反対の国道側を見てみると、なにやら蔵のようなつくりの建物が。

表に回ってみると「甲南漬資料館」。さすが酒処・灘である。

昭和5年建築の洋館が資料館になっており、国登録有形文化財建造物に指定されているとか。

http://www.konanzuke.co.jp/mukonosato/siryou/index.htm

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内部は当時の応接室を利用した喫茶や料理教室、そして奈良漬けに関する学習資料室などがある。

今年から家庭科の担当もしているだけに、食品の科学的製法が学べて良かった。

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資料館を抜けると日本庭園があり、その裏は阪神電車の車庫になっている。

そして庭を通りぬけると販売店に入るようなしくみになっている。

 

 

 

 

さて予想外の収穫に気をよくして駅に戻る。ここから行ける駅はスタートの「雲雀丘花屋敷」をはじめ、両隣の「石屋川」「大石」ほか、「尼崎センター前」「伝法」「千船」「福」「山本」「蛍池」「豊中」「牧落」「関大前」「高槻市」「摂津市」「庄内」「園田」「崇禅寺」…17駅もある。ここから選ばれた2つめの目的地は、鉄道研究会のルーツである箕面高校の最寄り駅「牧落」駅。

 

乗り継ぎ -「西宮」-「今津」-「今津」-「西宮北口」-「宝塚」-「石橋」-image

この日は雲ひとつ無い好天、日差しもきつく気温も高い。今年初めて着た半袖で正解だったと思いつつ、帽子もかぶってくるべきだったと反省。今津や西宮北口では軽く一杯と行きたくなるところだが、このあとに画策している野望のためガマンである。

宝塚からは急行しかなく、石橋まで各駅に停車するので、急行乗車のまま石橋へ。石橋から2駅で目的地「牧落」駅である。

 

 

2つめの目的地:阪急箕面線「牧落」駅

これまた何も期待できない住宅地である。周辺地図を見ても市役所・野球場・公民館のたぐいしかない。とりあえず「日時計の家」という名の公民館を目指す。周囲は昔からの住宅地とあって大きな家が多い。文化住宅の面格子?手すり?にもおしゃれなデザインのものが取り付けられている。途中で芳ばしい香りに引かれると無添加パンの工房を発見、しかしここも買い食いはガマンである。

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さて、ほどなく日時計の家に到着。しかし日時計は見つからず、周囲をぐるりと回ってみても日時計らしきものは見当たらなかった。日時計とは何かのたとえなのかもしれない。そのまま周辺を散策するが目立った発見は無く、ぐるっと駅の周りを一周した。この時点で時刻は正午である。

さて次の目的地候補は、阪急だと「石橋」「千里山」「南茨木」「洛西口」、阪神だと「三宮」「春日野道」「岩屋」「新在家」「姫島」「杭瀬」「野田」「打出」「伝法」「西九条」「大阪難波」と15候補。しかし…実はもう第3の目的地は「大阪難波」と決めてある。というか第3候補が「大阪難波」か「梅田」になるように実は第2目的地を選んだのだった。

乗り継ぎ -「石橋」-「梅田」-「梅田」-「尼崎」-P5030359

石橋では梅田方面へ向かう急行が到着するが、規定により見逃す。普通列車で梅田まで移動。新しくなった32番街の通路を通り、阪神電車の梅田駅へ。スナックコーナーが無くなっていることを初めて目の当たりにした。ひとつの時代が終わり次の時代へと変わっているのだなぁと実感。

阪神電車も規定により特急を見逃して普通列車にのりこみ、尼崎へ。そして大阪難波へ向かう。

さてここでミス。尼崎から乗った近鉄直通の特急列車、大阪なんば線内は各駅に止まると思い込んでいたのだが、あっさり次の駅を通過していき、西九条まで…。いまさら戻って普通列車に乗り直す気にもなれず、ミッション失敗ということで、ここにひとつのネタとして記させていただく。

 

3つめの目的地:阪神なんば線「大阪難波」駅P5030364

気を取り直して、大阪難波駅からぐいぐいと歩く。目的地は大阪府立体育館周辺。そこに昼食場所として行きたかった店があるのだ。

その店は、立ち食いステーキの店「いきなりステーキ」だ。この店は「立ち食い」と「肉の量り売り」というシステムが特徴で、『両足で踏ん張って本能のままに肉を食べるという感覚』がウケているらしい。近畿地方では梅田・心斎橋・なんばの3店舗しかないので、今回の企画で行くとしたら「梅田」駅か「大阪難波」駅しかない。しかし、「梅田」駅は今回の行動範囲の中心にあるため、かえって30駅めとなりにくい駅であり、難波は分岐駅から9駅先の突き当たりという、よほどの幸運が無い限り、停車できない駅なのだ。ということで午前中一番頭を使ったのが、昼時にどちらかの駅にあたるよう第2駅をスクリーニングする作業だった。出身高校ゆかりの地という大義名分があったものの、スタート地点から近く、取り立てて何も無いだろうことが予想された「牧落」駅を選んだのは、この野望実現のためだったのだ。

さていよいよ店に突入だ。店内に入るやいなや、煙と焼けた肉とニンニクの匂い「にくにく」感が充満している。幸い待ち時間は0でカウンターに案内され、サイドメニューとしてビールのみを注文する。そして厨房に出向きおもむろに「リブロース400、ミディアムレアで」と注文。肉のかたまりから店員さんが切り取った肉は411g、OKOK!少ないよりは良い。あとはビールをちょい飲みしつつ、焼き上がりを待つだけだ。待つこと10分足らずでそれは来た!少量のコーンとオニオンを枕に、ニンニクバターを中央に戴いた、くっきり焼き目のついたステーキが。ソースをかけると、ジュワーという音とともに跳ね、鉄板でソースが焦げる匂いがひろがる。切っては喰い、切っては喰い、好みで塩やこしょう、追加のニンニクやわさびをつけて、また切っては喰い、切っては喰い、なるほど野生の肉食感がする。カウンターが比較的低いので、前屈みになって食べるところも野性味を醸し出しているのかもしれない。大満足。これでビール込みで3100円なら安いだろう。

P5030360P5030362なんか北海道みたいな形の肉だな。

さて、満腹とビールのほろ酔いも相まって、実に気分が良い。大阪難波駅への距離(けっこうある)も忘れるくらいに満足感に浸っている。もうなんか今日の目的は達成したみたいな感じになっているのだが、時刻はまだ午後2時すぎだし、阪急の京都線にも乗っていない。次の候補駅は、阪神なら「西灘」「西元町」「新開地」「深江」「尼崎センタープール前」「東鳴尾」、阪急だと「春日野道」「宝塚」「山本」「豊中」「豊津」「正雀」「高槻市」13カ所である。残り時間から考えて目的地はあと2つ、まだ乗ってもいない京都線の目的地が「高槻市」駅というのもなんなので、京都線の駅は最後の目的地として残しておくことにする。そこで第4の目的地は十三より西の駅から選び、神戸高速鉄道の「新開地」駅とすることにした。

乗り継ぎ -「尼崎」-「今津」-「今津」-「西宮北口」-「阪急三宮」-

大阪なんば線、今回は間違えないように普通列車に乗り込む。空いている各駅停車で少しまどろむ。

尼崎のひとつ前の「大物」駅直前で梅田からやってきた普通列車と併走、そして両列車とも「大物」駅で停車…。

「あれ、大物駅で乗換できるやん…」 ここに至って致命的なミスに気づいてしまった。

そうなのだ、大阪なんば線の分岐駅は「尼崎」駅ではなく「大物」駅だったのだ。つまり「梅田」駅から「大阪難波」駅へ向かうには大物駅が乗換駅であり、となると「大阪難波」駅は「牧落」駅から30駅ではなく28駅ということ。つまり目的地対象ではなかったということだ。なんてこった。まちがえて特急に乗ってしまったどころではない、ほろ酔い気分も吹っ飛んだ。今になって思えば「尼崎」駅から特急に乗っていなければ気づいていたかもしれなかったのだが…後の祭りである。

さて、どうするか。どうするかと言っても「大阪難波」駅の取材、ステーキの満腹感にビールのほろ酔い感、この至福の感情を無かったことにするわけにはいかない。けっきょくこのまま粛々と続けることにした。

この日2度目となる阪急「今津」駅。発車までの待ち時間、ベンチに座ってアイスを食って、ぼぉっとする。六甲の山々と青空がきれいである。

 

4つめの目的地:高速神戸線「新開地」駅

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神戸高速鉄道は、神戸に集う各私鉄を結ぶ車両を持たない鉄道会社である。「新開地」駅は、阪急・阪神・山陽・神戸電鉄の各社の列車が揃う神戸高速鉄道を象徴する駅である。

←立ち食い店の名称が「高速そば」、速そうだ。

通路の傾斜にあわせた店のつくりも独特で、中はどうなっているのか気になってしまう。

 

東口から地上に出てみると、いきなりエビスの店、かなり惹かれたが後の時程を考えるとあまりゆっくりはしていられない。すこし歩くとボートピア神戸。競艇の場外発売場である。中に入るといくつも並んだ大型モニターを眺める座席があり、その後には全国の競艇の勝舟投票券が買える自販機があった。買ってみようかとも思ったのだが買い方が分からず後の人に迷惑をかけそうだったのと、そもそも結果を確認する時間がもったいない。早々に退散することにした。

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「新開地」駅に戻り、最後の目的地へ。この時点で時刻は16時15分。目的地候補は「大阪難波」「元町」「福」「千船」「福島」「西九条」「鳴尾」「東鳴尾」、「王子公園」「十三」「清荒神」「売布神社」「曽根」「服部天神」「淡路」「水無瀬」と16カ所だが、これはもう、京都線「水無瀬」駅で決定である。

 

乗り継ぎ -「阪急三宮」-「十三」-「淡路」-「高槻市」-

阪急の特急に乗って「阪急三宮」駅へ。ここで普通に乗り換えである。このまま乗っていけば、あっという間に「十三」駅である。しかし各駅停車縛りという自分の決めたルールがある。もうすでに故意ではないにしろ破ったルールだし、目的地の計算間違いという大失態をしているので、いまさらルールもないような気もする。しかし、ここで自分からルールを崩壊させては、これまでの一日が無駄になるような気がしたので、やはり普通列車に乗り換えることにした。十三までの各駅停車乗車は時間もかかり、なかなかの苦行であった。

十三でも特急・準急と見逃し、普通に乗る。今日初めての京都線である。乗った列車は北千里行きだったので淡路でも乗り換え。高槻市駅で準急に乗り換え、ようやっと目的の「水無瀬」駅到着である。「新開地」駅から実に1時間45分、時刻はもう18時である。空はまだまだ明るいが、太陽は西の北摂の山々の裏側に回り込んでいる。

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5つめの目的地:阪急京都線「水無瀬」駅

さすがに列車の中で「水無瀬」駅周辺のことは調べておいた。大阪府唯一の「名水百選」に選ばれた「離宮の水」で有名な水無瀬神宮に行くことにする。「離宮の水」はこのあたりに多く湧く伏流水で、サントリーの山崎工場も同じ系統の水を使っているとのこと。島本町の上水も90%はこの水を使っているらしく、実際に水無瀬神宮の近くに島本町の取水施設や上下水道施設があった。

駅から線路沿いを京都方面に10分あまり歩くと左手に杜が見えてきた。

宮内は人気も少なく日が暮れ始めているので静謐な雰囲気がただよう。本殿の上には満月が浮かんでいる。色々あった今日の一人取材の締めくくりとしてはなかなか良いムードである。目的の「離宮の水」は、残念ながら取水時間(17時まで)に間に合わず、蛇口をひねっても出てこなかった。

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「水無瀬」駅に戻り、18:40、11時間近くに及ぶ一人取材の終了である。

準急、そして十三からは急行を利用して、スタート地点に戻った。

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